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広島地方裁判所 昭和49年(行ウ)1号 判決

広島県三原市本町一八五七番地

原告

沼田弘章

右同所同番地

原告

沼田慈子

右同所同番地

原告

沼田敏行

右原告ら三名訴訟代理人弁護士

竹下重人

右三名輔佐人

香取季則

広島県三原市宮沖町二四四番地

被告

三原税務署長

金森俊樹

右指定代理人

有吉一郎

高田資生

田上晋平

藤井哲男

安永功

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告沼田弘章に対してなした左記処分をいずれも取消す。

(一) 昭和四六年七月三〇日付青色申告書提出承認の取消処分

(二) 昭和四六年七月三〇日付昭和四二年分所得税の更正処分(但し、同四六年一二月七日付再更正処分によって変更された後のもの)

(三) 昭和四六年七月三〇日付昭和四三年分所得税の更正処分

(四) 昭和四六年七月三〇日付昭和四四年分所得税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分(但し、同四六年一二月七日付変更決定処分によって変更された後のもの)

2  被告が原告沼田慈子に対してなした左記処分をいずれも取消す。

(一) 昭和四六年七月三〇日付青色申告書提出承認の取消処分

(二) 昭和四六年七月三〇日付昭和四二年分所得税の更正処分(但し、同四六年一二月七日付再更正処分によって変更された後のもの)

(三) 昭和四六年七月三〇日付昭和四三年分所得税の更正処分(但し、同四六年一二月七日付再更正処分によって変更された後のもの)

(四) 昭和四六年七月三〇日付昭和四四年分所得税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分(但し、同四六年一二月七日付再更正処分及び変更決定処分によって変更された後のもの)

3  被告が原告沼田敏行に対してなした左記処分をいずれも取消す。

(一) 昭和四六年七月三〇日付昭和四三年分所得税の更正処分(但し、同四六年一二月七日付再更正処分によって変更された後のもの)

(二) 昭和四六年七月三〇日付昭和四四年分所得税の更正処分(但し、同四六年一二月七日付再更正処分によって変更された後のもの)

4  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  (請求の趣旨記載の各処分について)

(一) 被告は、原告らの昭和四二年分ないし昭和四四年分の所得税につき、別紙1「課税処分経過表」中「(再)、(再再)修正申告額」欄記載の各申告に対して昭和四六年七月三〇日付で同表中「更正処分」欄記載の各更正処分及び昭和四四年分について同表中「重加算税」欄記載の各賦課決定処分をなした。更に、被告は昭和四六年一二月七日付でそれぞれその一部を変更して、同表中「再更正処分」欄記載の各再更正処分及び同表中「変更決定」欄記載の各変更決定をなした。

(二) 被告は原告沼田弘章(以下、単に「原告弘章」という。)及び同沼田慈子(以下、単に「原告慈子」という。)に対して、昭和四六年七月三〇日付で青色申告書提出承認の各取消処分をなした。

2  (違法事由)

右の各処分には次のような違法がある。

(一) 原告弘章及び同慈子関係

(ゲームセンターの簿外経費)

原告弘章及び同慈子は、昭和四二年一一月以降共同して広島駅ビルでゲームセンターを経営しているが、その営業のために以下の金員を簿外で支出した。しかるに、被告はこれらを必要経費に認めなかったのは違法である。

(1) 昭和四二年分

〈1〉 修理費 二五万円

イ 昭和四二年一一月 一〇万円

装飾品代金として福屋百貨店に支払った。

ロ 昭和四二年一二月 一五万円

修理用工具、電気部品代金として天満屋百貨店に支払った。

〈2〉 旅費 七五万円

ゲームセンター開業に当って業界の状況等調査のため大阪等へ旅行した。

〈3〉 交際費 一五〇万円

ゲームセンター開業及び営業継続のため国鉄、駅ビル関係者との交際に使った。

(2) 昭和四三年分

〈1〉 給料賃金

イ 給与 三八万七三八七円

決算整理の時、原告弘章からの借入金を同原告の給与に振替経理した。

ロ 賞与 一一〇万円

ゲームセンター支配人半田に対する賞与である。

〈2〉 旅費 四三万円

同業者の営業状態の調査見学のため旅行した。

〈3〉 交際費 三四四万円

国鉄や駅ビル等の関係者との交際に要したものである。

(3) 昭和四四年分

交際費 四八九万円

国鉄等の関係者との交際に使用した。

なお、各年度の営業所得の計算上、原告らが被告の主張額を争うのは右各項目についてであり、その余の営業所得についての主張は認める。

(二) 原告弘章関係

(昭和四四年分の有価証券売買について)

(1) 原告弘章は昭和四四年中に副業として訴外ウツミ屋証券株式会社尾道支社を通じ、本名及び佐藤浩子名義で有価証券売買を行ない、その回数は売り買いを通じて六六回、その株数は二四万六〇〇〇株である。

(2) また、同原告は日頃商品取引、有価証券取引に関心を持っており、右有価証券売買は同種行為の反覆、継続すなわち事業として行なったものである。

(3) ところが、同原告は右有価証券の取引において、昭和四四年中に四八七万六四六二円の損失を被ったのであるから、これは事業所得に係る損失として他の所得金額から控除すべきである(昭和四三年法律第二一号による改正後の所得税法六九条一項)。

(4) しかるに、被告はこれを認めないのは違法である。

(三) 原告ら三名関係

(1) (昭和四三年分の長期譲渡所得について)

〈1〉 原告ら三名及び訴外藤井清人、同藤井ツマ子は共同して広島市西区庚午町字六の割四二九番地の一宅地四六九・二九坪(以下「本件土地」という。)を昭和三八年二月一日任意競売により競落し所有権を取得した。

〈2〉 ところが、右土地上には、所有者山田尊が七棟の温室(同温室も原告らが一緒に競落)を建て訴外伊藤雅夫に賃貸していて、右山田、伊藤がこれを明渡さなかったため、原告ら及び訴外藤井らは訴訟を提起(当庁昭和四〇年(ワ)第八二〇号)して、同訴訟で、右山田、伊藤らは右土地建物を明渡し、かつ使用損害金として昭和三八年二月以降月一〇万七〇〇〇円昭和四二年二月以降月一一万円を支払うべき旨の勝訴判決を得た。

〈3〉 原告ら及び訴外藤井らは右判決に基づき強制執行に着手したが、執行費用が莫大な金額になることが見込まれたため、昭和四二年五月ころ訴外山田、同伊藤に対し従前の損害金の一部を免除して、改めて、右土地につき短期の賃貸借契約を結び、昭和四三年中はその賃料を収受していた。

〈4〉 原告ら及び訴外藤井らは、本件土地を昭和四三年九月ころから昭和四四年八月ころまでの間に売却し(昭和四三年中三一三・六六坪、昭和四四年中一五五・六三坪)、その売却代金をもって原告ら三名は共同して、福山市引野町所在の山林原野を購入し、これを訴外株式会社ぬたやに賃貸して賃料を収受していた。

〈5〉 ところで、本件土地を訴外山田、同伊藤に賃貸していたのは、当時施行されていた租税特別措置法施行令二五条の六にいう「事業と称するに至らない不動産の貸付け、その他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの」に該当し、従って、同法三八条の六にいう「事業(事業に準ずるものとして政令で定めたもの)」に該当する。

〈6〉 よって、本件土地の前記譲渡(昭和四三年分)については租税特別措置法三八条の六(事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の金額の計算)の規定を適用すべきであるにかかわらず、被告はその適用を認めなかったのは違法である。

(2) (昭和四四年分の重加算税の賦課手続の違法、原告弘章、同慈子の関係)

〈1〉 昭和四四年分の所得税確定申告期限である昭和四五年三月一日ころは、査察を受け昭和四四年分の帳簿書類は一切押収されていたので帳簿による計算は不可能であったため、やむを得ず見込額によって申告したものである。

そして修正申告すべく督促を受けたときも同様の状況であった。

〈2〉 原告らが査察を受け全財産が明らかになっているとき、所得を陰ぺい仮装して申告することを全く考えていないのは明白である。

〈3〉 したがって、右のような場合は、仮に申告額が過少であったとしても、国税通則法六五条二項に基づき過少申告加算税を賦課すべきでないのみならず、同法六八条一項には該当しないので重加算税を賦課すべきではない。

しかるに、被告はこれに反して重加算税を賦課しており違法といわなければならない。

3  (異議申立及び審査請求)

原告らは、本件各青色申告書提出承認取消処分、各更正処分及び各加算税賦課決定処分を不服として各処分について昭和四六年八月三〇日付で被告に対し異議申立をなしたところ、同年一二月四日に審査請求とみなされた。

そして、昭和四八年九月二七日国税不服審判所長は、右各審査請求についていずれも棄却する旨の裁決をした。

4  (結論)

よって、原告らは被告に対し請求の趣旨記載の各処分の取消を求める。

二  請求原因に対する答弁及び被告の主張

1  答弁

(一) 請求原因1の(一)、(二)、同2の(三)(1)〈1〉、〈2〉、〈4〉、同3の各事実は認める。

(二) 同2の(一)につき原告ら主張の金額を否認したことは認めるが、その主張事実はいずれも争う。同(1)の〈1〉イにつき、ゲームセンター開業時(昭和四二年一一月一八日)に装飾及び広告関係は一括して訴外「強力広告」に四八万一八八〇円で施工させ、その代金は昭和四三年一月三一日に公表帳簿を通じて支払われており、さらに昭和四二年一一月中に別途購入したとは認められない。同〈1〉のロにつき、原告らはゲームセンター開業時に機械等の電気設備を訴外「栄電工業」に一一万九〇〇〇円で施工させ、その代金は昭和四二年一二月二五日に公表帳簿を通じて支払われており、短期間内にさらに原告らのいう電気部品等が必要であるとは認め難い。そのうえ、通常、営業用のものを訴外天満屋百貨店から購入するとは考え難いし、また、仮に購入したとしても、使用消費したとは認められないたな卸資産であって、必要経費に算入すべきではない。同(1)の〈2〉及び同(2)の〈2〉につき、原告弘章は、昭和四五年三月一九日の国税局係官に対する陳述では、個人的に旅行したときの費用であると認めており、宿泊先に照会調査したところ宿泊したとの肯定の回答はなく、共同経営者である原告弘章と同慈子が同一目的で別々に旅行したとも考えられない。同(1)の〈3〉、同(2)の〈3〉及び同(3)につき、当時駅ビルとしても、駅ビル催しコーナーは借り手が少く赤字経営であったことから、ゲームセンターに貸すことを有利と考えていたものであり、交際費支出の要はなく、また支払年月日、支払先も明らかでない。同(2)の〈1〉イにつき、雇人に対する給与は必要経費として損金に該当するが、個人経営者たる原告弘章に対する給与は、税務計算上必要経費に該当しない。同〈1〉のロにつき、原告弘章が昭和三九年二月二九日訴外半田に土地建物を譲渡した代金の未収入金を決済するために賞与を支給したこととしたものであって、現実に支給はされておらず、かつ、営業に対する必要経費ではない。

(三) 同(二)の(1)につき原告弘章が昭和四四年中にその主張の会社を通じてその主張の株数の有価証券の売り買いを行なったことは認めるが、その回数は争う。同(2)、(4)は争う。同(3)につき、原告弘章が損失を被ったことは認めるが、その主張は争う。

(四) 同(三)の(1)〈3〉につき、原告らと訴外山田らの協議の結果一時明渡を猶予したことは認めるが、その余は否認する。同〈5〉、〈6〉は争う。同(2)の〈1〉につき、原告弘章同慈子は、収入金の一部を除外し簿外の仮名普通預金とし、それを簿外の仮名定期預金あるいは簿外の土地購入費に当てて所得の一部を隠べいし、その隠べいしたところにより納税申告をしていたものである。自己の所得金額は自らが最も熟知しているものであって、帳簿書類による所得計算が不可能であるとしても、右原告らがした申告のように現実の所得と甚だしく較差が生ずることはあり得ない。同〈2〉につき、右原告らが国税局の査察調査の末期である昭和四五年五月二五日付でした昭和四四年分の修正申告書は単に分離長期譲渡所得を加算したにすぎず、右原告らの主張は詭弁にすぎない。同〈3〉は争う。

2  被告の主張

(一) 被告は原告らの(再、再々)修正申告に対し、最終的に別紙2「課税処分表」記載のとおり各更正処分等をなした。

(二) (ゲームセンターの簿外経費について)

(1) 原告らはその主張にかかる簿外経費について証拠書類を提示せず、また資金源を明らかにしていない。

(2) ゲームセンターの簿外収入金はすべて仮名の普通預金に預金され、その引出額のほとんどが仮名定期預金等とされており、簿外での必要経費の支出は簿外の借入金によるほかないのであるが、原告らも認めているとおりその借入金は存在しない。

よって、簿外で原告らが経費として支出したとは認め難く、必要経費を否認した被告の認定は正当である。

(三) (原告弘章の有価証券売買の関係について)

(1) 証券会社に委託して株式の売買を行なった場合における所得税法九条一項一一号イ同法施行令二六条二項一号に規定する売買の回数五〇回は、証券会社が当該委託に基づいて行った取引に係る銘柄又は取引回数のいかんにかかわらず、証券会社との間の委託契約ごとに一回として計算すべきであり、右基準に従って計算すれば、昭和四四年中の株式売買の回数は合計四七回である。

(2) したがって、本件取引は同条項の売買回数に当たらないので右取引による所得は非課税所得(所得税法九条一項一一号)であり、右株式の譲渡による収入金額が取得費等の金額に満たない場合における不足額は、所得税法上ないものとみなされる(同法九条二項三号)。

(3)〈1〉 そしてなお、有価証券の売買が事業にあたるか否かはその取引のための施設、その者の職業、その他諸般の事情に照し判断すべきものであるが、原告弘章はその売買のための施設を有せず、その生活の資も訴外株式会社ぬたやの代表取締役として報酬、ゲームセンターの収益、不動産所得の収益から経常的に得ているものであって、事業と言えるものではない。

〈2〉 原告弘章は当時事業所得について青色申告書の提出の承認を受けていた者であり、事業所得についてはすべて記帳すべきものであるところ、同原告は有価証券の取引についての記帳、決算は全くしておらず、当初から事業としての認識はなかったというべきである。

〈3〉 同原告の主張は、もっぱら正当に負担すべき所得税の軽減を意図し、漫然と事業所得として申告したというほかないのである。

(4) 以上のことから、いずれにしても被告が、原告弘章の右株式の売買を事業所得に係る損失として他の所得金額から控除することを認めなかったのは正当である。

(四) (原告ら三名の長期譲渡所得について)

(1)〈1〉 訴外山田らは本件土地の明渡し判決(仮執行宣言付)に対し控訴した。一方、原告らは昭和四一年一二月二一日右判決に基づき有体動産の差押に着手したが、その際訴外山田らとの協議の結果、訴外山田らは、昭和四二年二月末日までに明渡すこと、使用損害金として同年一月末日までに二五万円を内払いすることを約し、同訴外人らは控訴を取下げた。

〈2〉 そして、昭和四二年一月末ころ訴外山田らと使用損害金について再び協議したところ、訴外山田らが原告ら五名に一〇〇万円を支払うこと(支払方法同年二月ころ現金二〇万円、残金は額面各一〇万円の約束手形八随)で協議ができた。

〈3〉 ところが、訴外山田らは右期限になっても明渡さなかったため、原告らは、同年三月一日、同年四月一日不動産明渡執行をなし、同年五月二日明渡執行を完了し、次いでその後、昭和四三年九月ころから同四四年八月ころにかけて本件土地を分筆して他に売却した。

〈4〉 なお、昭和四三年二月右使用損害金の支払は終了した。

〈5〉 以上の経過であって、原告らが訴外山田らに本件土地を賃貸した事実もなく、また相当の対価を得る目的で継続的に使用させていた事実もない。

仮に、賃貸していたとしても、租税特別措置法三八条の六の適用を受けんがための一時的な賃貸であり、譲渡資産を事業の用に供していたか、一時的な利用であるかどうかについては、その実体が明らかでない場合には、事業の用に供している間が継続して一年程度を経過しているかどうかによって判定すべきものである。

〈6〉 なお、本件土地について原告らと共同して競落し、譲渡した訴外藤井清人、同藤井ツマ子は右譲渡代金をもって事業用資産を取得し、租税特別措置法三八条の六を適用して確定申告書を所轄税務署長に提出していたが、その後譲渡資産が事業用資産でないとして、同法の適用を排除して修正申告書を提出している。

〈7〉 よって、本件土地は事業用資産に該当しないから、租税特別措置法三八条の六の規定の適用はないとしたのは正当である。

(2) 原告ら後記主張の判決は、もともと当事者間に賃貸借契約が存在し賃借人の賃料不払により契約を解除し、明渡しを求めていたものであり、右契約解除後に賃借人から収受した滞納賃料、賃料相当損害金の課税時期を判示したものであって、所得の種類を判示したものではない。

(五) (原告弘章及び同慈子の青色申告承認の取消処分について)

原告弘章及び慈子は、以上のように収入金の一部を除外するなどして簿外の普通預金とし、それを簿外の定期預金あるいは簿外の土地代にあてて所得を隠ぺいしたので、被告は昭和四六年七月三〇日付で所得税法一五〇条一項三号に該当するとして、昭和四三年度分以降の青色申告書提出の承認を取消したものである。

三  被告の主張に対する答弁

1  被告の主帳(一)の事実は認める。

2  同(三)の(1)は争う。委託の内容が株式の銘柄、株数等によって特定されている場合は、被告の主張は正当であるが、本件のごとく証券会社に対する委託の内容が特定しない場合においては取引ごとに一回として計算すべきであり、したがって株式売買の回数は六六回である。同(2)は争う。同(3)の〈1〉につき、原告弘章がした株式売買は、同人の経歴、株式売買の回数、取引数量、取引金額を総合して考慮すれば、社会的客観的には「対価を得て継続的に行う事業」であるといえる。すなわち、この種行為が事業といいうるためにはそのことが生計の中心であるとか、物的人的設備を有するとか、事業資金を他人から調達するとかということは不可欠の要件ではなく、自己の計算において反復継続され、取引社会において「業としているもの」と認識される状態であれば足りる。同原告は株式売買について研究と資料収集をし、市場の動きを把握し熱心に取引を続けていたものである。同〈2〉につき、原告弘章が青色申告書提出承認を受けていたこと及び有価証券の取引についての帳簿を備えていなかったことは認める。但し、取引の結果については証券会社からの報告で把握していた。同(4)は争う。

3  同(四)の(1)〈1〉、〈2〉、〈4〉の各事実はいずれも認める。同〈3〉も認めるが、しかし、昭和四二年五月二日に明渡執行完了の執行調書が作成されたのは、植木類が極めて多数であるため、執行官による強制執行は実行できそうもないことがわかったので、関係人協議のうえ執行完了ということにしたためである。爾後、訴外山田らが自力で順次植木類を移転し、その移転完了までは本件土地建物を使用し、原告らに使用料を支払うことを約束した。右使用料は従前の使用損害金の分割支払とは別のものである。そして、訴外山田らは昭和四二年の末までに植木類の移転を完了した。同〈5〉は争う。原告らは訴外山田らに昭和三八年二月から昭和四二年二月までは賃料相当使用損害金を支払わせ、同年五月以降同年末までは賃料を支払わせていたのであり、継続的に使用させて対価を収受していたものである。同〈6〉は不知。同〈7〉は争う。同(四)の(2)につき、仮に、原告らと訴外山田らの間の賃貸借契約の存在が認められないとしても、本件土地をめぐる原告らと訴外山田らの紛争は、同訴外人らの占有権原の存否が争われたのであるところ、借地権の存否が争われた場合の賃料相当損害金も「不動産の貸借による所得」すなわち不動産所得である(最高小二昭和五〇年(行ツ)一二三号昭和五三年二月二四日判決訟務月報二四巻四号八五八頁)とされ、したがって、本件土地も、原告らによって租税特別措置法三八条の六第一項所定の「事業」(事業に準ずるものとして政令で定めるものを含む)の用に供していたものとみることができる。

4  同(五)は争う。

第三証拠

一  原告ら

1  甲第一号証

2  証人西宣仁(第二回)、原告沼田慈子本人

3  乙第四号証、第五号証の一、二、第六号証の一ないし五、第九号証の一ないし三、第一〇号証の三ないし八、第一二号証の一、二、八、第一四号証、第三二号証はいずれも原本の存在およびその成立を認める。その余の乙号各証の成立はすべて認める。

二  被告

1  乙第二ないし第四号証、第五号証の一、二、第六号証の一ないし五、第七、第八号証、第九号証の一ないし三、第一〇号証の一ないし八、第一一号証の一、二、第一二号証の一ないし八、第一三号証の一、二、第一四号証、第一五ないし第一七号証の各一、二、第一八号証の一ないし三、第一九号証の一ないし七、第二〇ないし第二七号証の各一、二、第二八号証の一ないし三、第二九、第三〇号証の各一ないし四、第三一号証の一、二、第三二号証

2  証人西宣仁(第一回)、同吉村悟

3  甲第一号証は原本の存在およびその成立を認める。

理由

一  被告が、原告らの昭和四二年分ないし昭和四四年分(但し原告敏行については昭和四三年及び昭和四四年分)の所得税について、昭和四六年七月三〇日付で原告ら主張の各更正処分及び各賦課決定処分をなしたこと、更に、被告が同年一二月七日付でその一部を変更して、それぞれ原告ら主張の各再更正処分及び各変更決定をなし、その各更正処分等の内容が別紙1課税処分経過表別紙2「課税処分表」記載のとおりであること、被告が原告弘章及び同慈子に対して、同年七月三〇日付で青色申告書提出承認の各取消処分をなしたこと、原告らが本件各青色申告書提出承認取消処分、各更正処分及び各加算税賦課決定処分を不服として各処分について同年八月三〇日付で被告に対し異議申立をなしたところ、同年一二月四日審査請求とみなされ、昭和四八年九月二七日国税不服審判所長により右各審査請求についていずれも棄却する旨の裁決がなされたこと、は当事者間に争いがない。

二  そこで、まず、原告弘章及び同慈子関係の昭和四二年ないし昭和四四年分の営業所得について、同原告ら主張のゲームセンターの簿外経費の存否等について検討する。

1  昭和四二年分修理費二五万円について

原本の存在及びその成立に争いのない乙第九号証の二の別紙2上申書(株式会社ぬたや代表取締役沼田弘章の広島国税局収税官吏宛)には、昭和四二年一一月装飾品代一〇万円を福屋へ、同年一二月修理用工具代五万円及び電気部品代一〇万円を天満屋へそれぞれ支払った旨の記載があり、成立に争いのない乙第一〇号証の二(原告弘章に対する昭和四五年三月一九日付質問顛末書)にも、ゲームセンターの簿外経費として昭和四二年一一月から同年一二月までの間にゲーム機械の修理代等二五万円を支払った旨の記載はあるものの、右支払いの事実を裏付ける領収書等の証拠書類はなく、右記載のみではとうてい原告らの主張を認めることはできず、むしろ、右各書証と弁論の全趣旨に照らすと、右は何ら公表帳簿に記載されてない支出ということであり、しかも、当時別に公表帳簿による相当額の修理費の支出もなされており、また右支払先が百貨店であることなどからすると、右経費としての支出はなかったものと推知され、他にこれを覆すに足りる証拠はない。したがって、右の点は被告のさらにその余の主張につき判断するまでもなく理由がない。

2  昭和四二年分及び昭和四三年分の旅費について

前記乙第九号証の二の別紙3及び同4の上申書(沼田慈子作成)には、昭和四二年分の旅費として七四万六〇〇〇円を、同四三年分の旅費として四三万円分を支出した旨の記載があり、原告沼田慈子本人尋問の結果中にもこれに沿う供述部分があるが、右記載内容並びに供述は、原本の存在及びその成立に争いのない乙第一〇号証の三ないし八により認められる調査旅行に際し原告らが宿泊したと主張するホテル等に同人らの名前で宿泊した者のいない事実、及び前記乙第一〇号証の二により認められる原告弘章は広島国税局の調査での供述では、その前に提出していた右上申書(乙第九号証の二の別紙3)に記載されている調査旅行は、すべて個人的な旅行でありゲームセンターの営業とは無関係であるとして右上申を撤回する旨述べている事実等に照らしにわかに信用することができず、むしろ、右各証拠に照らすと、原告弘章らの本件必要経費としての支出はなかったものと推知され、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

3  昭和四二年分ないし昭和四四年分の交際費について

成立に争いのない乙第一〇号証の一・二、乙第一二号証の五の各記載中及び原告沼田慈子本人尋問の結果中にはこれに沿う部分はあり、また前掲乙第九号証の二別紙1の記載によると、原告らの仮名預金口座から多額の金員の払出しのなされている事実がうかがわれるが、右各記載並びに供述では、支払年月日、支払先、支払の目的・趣旨等が明らかでなく、あいまいであって、右主張に沿う記載等もたやすく信用できず、むしろ、これら各証拠に、証人西宣仁の各証言、弁論の全趣旨を併わせ勘案すると、当時ゲームセンターの開業及び営業上原告ら主張のような金額出費の必要までなく、現にそのような必要経費としての支出はなかったものと推知され、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

4  昭和四三年分の給料賃金について

(一)  原告らは決算整理の時、原告弘章からの借入金三八万七三八七円を同原告の給与に振替経理した旨主張するが、個人事業の経営者たる同原告に対する給与は、その所得金額算定上必要経費には該当せず、したがって、右主張はそれ自体失当である。

(二)  原告ら主張のゲームセンター支配人半田に対する賞与一一〇万円については、これを認めるに足りる証拠はなく、かえって、証人西宣仁(第一回)の証言及び成立に争いのない乙第一二号証の三ないし七、原本の存在及びその成立に争いのない乙第一二号証の八によれば、右は、原告弘章が昭和三九年ころ三原市の土地建物を訴外半田に売却した代金の残金一一〇万円の未払債務を、昭和五三年二月ころ訴外半田に対する賞与として差引精算したとするもののようであるが、訴外半田は原告慈子の弟であり、当時ゲームセンターの簡単な現金出納簿つけと現金管理の仕事をしていたもので、他の従業員の盆、暮の賞与に比し著しく高額なものであるうえ、その他右賞与とした時期等からして、右は、ゲームセンターの営業上の必要経費としての償与ではないと推知され、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上によると、原告弘章及び同慈子の本件各係争年分の事業所得金額の計算上、同原告ら主張のゲームセンターの簿外経費を必要経費に計上することは、いずれも認められないこととなる。

三  次に、原告弘章の昭和四四年分の有価証券売買について、同原告が昭和四四年中に訴外ウツミ屋証券株式会社尾道支社を通じて有価証券売買を行ない、その株数が二四万六〇〇〇株であったこと、右有価証券の取引において同原告が同年中に四八七万六四六二円の損失を被ったこと、は当事者間に争いのないところ、同原告は右売買は事業として行なったものであり、したがって、非課税ではなく、右損失は事業所得に係る損失として他の所得金額から控除されるべきである旨主張するので、以下検討する。

1  所得税法九条一項一一号によれば、有価証券の譲渡による所得のうち同号イないしハに掲げる以外のものは、非課税とされており、そして、同号イは、継続して有価証券を売買することによる所得として政令で定めるもの、としたうえ、同法施行令二六条一項において、右所得は、有価証券の売買を行う者の最近における有価証券の売買の回数、数量又は金額、その売買についての取引の種類および資金の調達方法、その売買のための施設その他の状況に照らし、「営利を目的とした継続的行為と認められる取引から生じた所得」とする、とし、さらに、同法施行令二六条二項においては、その年中における株式等有価証券の「売買の回数が五〇回以上」で、その売買した株数等の合計が二〇万以上であるときは、その他の右一項に規定する取引に関する状況がどうであるかを問わず、その者の株式等の売買による所得は、右一項の規定に該当する所得とする、と規定している。

ところで、事業所得とは、所得税法二七条一項、同法施行令六三条一二号の規定によれば、一般には、「対価を得て継続的に行なう事業」から生じた所得と解されるが、原告弘章は、その株式売買による損失は、右施行令二六条一・二項所定の課税所得(事業所得もしくは雑所得)について生じたもので、かつ事業所得に係る損失であるから、所得税法六九条一項により他の所得金額から控除されるべきことを主張するものとみられる。

2  そこで、右観点から、原告弘章の主張について以下さらに検討する。

(一)  まず、所得税法施行令二六条二項一号に規定する有価証券の「売買の回数五〇回」とは、同一項所定の「営利を目的とした継続的行為と認められる取引」に当るかどうかを判断する主要な要素としての売買回数であることから、証券会社に委託して株式の売買を行なう場合の右回数は、委託(売付もしくは買付注文)の内容が株式の銘柄、株数等によって特定されている場合には、証券会社が右委託に基づいて行なった取引に係る銘柄数又は取引回数のいかんにかかわらず、証券会社との間の「委託契約ごと」に一回として計算するのを相当と解されるところ、右により本件につき検討してみるに、成立に争いのない乙第三号証、証人西宣仁(第一、二回)の証言によると、昭和四四年中の原告弘章の有価証券(株式)売買の回数は、合計四七回であることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  次に、成立に争いのない乙第一五ないし第一七号証の各一、二、乙第一八号証の一ないし三、乙第一九号証の一ないし七、乙第二〇ないし第二三号証の各一、二、証人西宣仁(第一回)の証言及び原告沼田慈子本人尋問の結果によれば、原告弘章は本件有価証券取引にあたり、従業員を雇用するといったことはなく、また、その取引のための事務所等格別の物的設備をもつこともなく、一人でもっぱら投機的目的のために、日経新聞や証券会社のパンフレット等を参考にし、取引の注文は電話または証券会社のセールスマンを通じて行なっていたという程度のものであること、昭和四二年分及び昭和四三年分の同原告の確定申告書には有価証券売買による所得の申告はなかったこと、同原告は、その生活の資を、訴外株式会社ぬたやの代表取締役としての報酬、原告慈子と共同経営のゲームセンターの収益あるいは不動産所得の収益から経常的に得ているものであることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  なお、原告弘章が当時青色申告書提出の承認を受けていたものであること、しかし、有価証券の取引についての帳簿は備えていなかったことは当事者間に争いがない。

(四)  以上(一)ないし(三)の事実及び前記争いのない事実に基づいて考えてみるに、本件有価証券取引における売買株数二四万六〇〇〇株は所得税法施行令二六条二項二号に定める要件を上廻ってはいるものの、売買回数四七回は同項一号の取引回数に該当しないことから、原告弘章の右有価証券取引は、まず同令二六条二項には該当しないものといえる。そしてさらに、前認定等の原告弘章の本件有価証券取引時の状況、その生活状況等に照らすと、原告弘章は、その余暇に証券会社のセールスマンを通じ投機的意向で株式売買をしていた程度にすぎないとみられ、いまだ同令二六条一項所定の「営利を目的とした継続的行為と認められる取引」とまでは認めがたい、のみならず、少くとも所得税法上の「事業」とは認めがたく、したがって、本件有価証券取引による所得(もしくは損失)は、事務所得に係るものとはいえない。

3  そうだとすると、本件有価証券取引によって生じた損失は、まず、所得税法九条一項一一号所定の非課税所得に係るもので、同条二項三号により所得税法の規定の適用上ないものとみなされるものであるうえ、少くとも、右は事業所得に係るものではないから、所得税法六九条一項により事業所得金額の計算上生じた損失として、他の所得金額から控除することはできない。

したがって、被告が、原告弘章の昭和四四年分有価証券売買による損失を事業所得に係る損失として他の所得金額から控除することを認めなかったことには何ら違法はなく、同原告の右主張は理由がない。

四  次に、原告ら三名の昭和四三年分の長期譲渡所得につき、当時の租税特別措置法三八条の六(事業用資産の買換えの場合の課税の特例)の適用の有無について検討する。

1  原告ら三名及び訴外藤井清人、同藤井ツマ子が共同して本件土地を昭和三八年二月一日任意競売において競落し所有権を取得したこと、ところが右土地上には、所有者山田尊が七棟の温室を建て訴外伊藤雅夫に賃貸していたが、右山田、伊藤がこれを明渡さなかったため、原告ら及び訴外藤井らが訴訟を提起し、その主張する内容の勝訴判決を得たこと、訴外山田らが右判決に対し控訴したこと、一方原告らが右判決に基づき有体動産の差押に着手したが訴外山田らとの協議の結果、昭和四二年二月末日までに明渡すこと、使用損害金を二五万円内払いすることを約し訴外山田らは控訴を取下げたこと、昭和四二年一月末ころ使用損害金について協議したところ、訴外山田らが一〇〇万円を支払う旨(支払方法同年二月ころ現金二〇万円、残金は額面一〇万円の約束手形八通)の協議ができたこと、ところが訴外山田らが期限(昭和四二年二月末日)になっても明渡さなかったため原告らが同年三月一日、同年四月一日、同年五月二日にそれぞれ明渡執行をなしたこと、昭和四三年二月に右使用損害金の支払が終了したこと、そしてその後、原告ら及び訴外藤井らが、本件土地を昭和四三年九月ころから昭和四四年八月ころまでの間に売却し、その売却代金をもって原告ら三名が共同して、福山市引野町所在の山林原野を購入し、これを訴外株式会社ぬたやに賃貸して賃料を収受していたことは当事者間に争いがない。

2  ところで、原告らは、前記判決に基づき強制執行に着手したが、執行費用が莫大な金額になることが見込まれたため、昭和四二年五月ころ訴外山田らに対し従前の損害金の一部を免除して改めて本件土地につき短期の賃貸借契約を結び、昭和四三年中はその資料を収受していたと主張しているので、この点につき検討する。

原告沼田慈子本人は、その本人尋問において、昭和四二年五月二日に明渡完了の執行調書が作成されているが、これは本件土地上の温室内の植木類が極めて多数で、執行官による強制執行が困難であることがわかったので、関係人協議のうえ、形式上執行完了ということにしただけであり、実際は、同年五月以降訴外山田らが自力で順次植木類を移転し、その移転完了までは本件土地建物を使用し、原告らに使用料を支払うことを約し、同訴外人らは昭和四三年六、七月ころまでに右植木類の移転を完了し、右使用料も同年二、三月ころまで支払っていた旨供述しているが、右供述は、あいまいで、合理性に欠け、前記争いのない、明渡猶予及び使用損害金の支払についての協議結果の事実などと誤認しているようにもみられ、たやすく信用できず、他にこれを裏付けるに足りる証拠はないのみならず、かえって、原本の存在及びその成立に争いのない乙第四号証、乙第五号証の一、二、乙第六号証の一ないし五、乙第七、第八号証、証人吉村悟の証言によれば、原告らは、本件土地建物の明渡し判決(昭和四一年一一月二日言渡)を得て後は、一途にその明渡しを求め、訴外山田らの事情で明渡猶予をしたことはあるも、結局、本件土地及び同土地上の温室は原告らの数度にわたる強制執行(昭和四一年一二月二一日、昭和四二年三月一日、同年四月一日、同年五月二日)及び訴外山田らの右温室内の植木類の自力移転等により、同年五月ころにはすでに明渡され、原告ら主張の短期賃貸といった事実はないことが認められる。

3  右認定事実によれば、譲渡資産である本件土地が、租税特別措置法三八条の六第一項所定の「事業」の用に供している資産に該当しないことは明らかであるのみならず、同土地が同条項括弧書の「事業に準ずるものとして政令で定めるもの」、すなわち同法施行令二五条の六第一項の「事業と称するにいたらない不動産又は船舶の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行なうもの」の用に供している資産に該当するか否かについても、右施行令の「不動産の貸付けその他これに類する行為」とは、第三者の為に相当期間当該不動産に対するなんらかの用益的権利を設定して、その対価を得る行為を意味し、単に事実上使用を受忍して、その使用損害金を収受しているような状態は含まないものと解されるところ、本件においては、右認定のとおり、原告らが訴外山田らに本件土地を賃貸した事実はなく、単に強制執行の際の協議の結果一時明渡を猶予した事実があるにすぎないから、このような場合に、右明渡猶予をもって「不動産の貸付けその他これに類する行為」に該当するものということはできない。

そうすると、本件土地は事業用資産に該当しないから、原告らの係争年分の長期譲渡所得について、租税特別措置法三八条の六第一項の課税の特例の規定の適用を認めることはできず、これを認めなかった被告の措置になんら違法はなく、原告らの右主張は理由がない。

五  原告弘章、同慈子に対する昭和四四年分の重加算税等の賦課手続の違法について

原告らは、昭和四四年分の所得税確定申告期限である昭和四五年三月一五日ころは、査察を受け昭和四四年分の帳簿書類は一切押収されていたので帳簿による計算は不可能であったため、やむを得ず見込額によって申告したものであり、仮に申告額が過少であったとしても国税通則法六五条二項に基づき過少申告加算税を賦課すべきでなく、かつまた、同法六八条一項には該当しないので重加算税を賦課すべきではない旨主張するが、前記乙第九号証の二、乙第一二号証の八、成立に争いのない乙第一二号証の七、乙第一三号証の一、二、証人西宣仁(第一回)の証言、弁論の全趣旨によれば、原告弘章及び同慈子は、昭和四二年分からゲームセンターの収入金の一部を正規の帳簿から除外して簿外の仮名普通預金とし、所得の一部を隠ぺいし、その隠ぺいしたところにより納税申告をしていたことが認められるのであって、帳簿の押収等が右過少申告の原因ではなかったことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠もなく、被告が同法六八条一項に基づき同原告らに対してなした請求の趣旨1の(四)及び同2の(四)記載の各重加算税の賦課決定処分は適法なものといえる。

六  原告弘章及び同慈子の青色申告承認の取消処分について

同原告らが、昭和四二年分からゲームセンターの収入金の一部を除外して簿外の仮名普通預金とし、所得を隠ぺいしていたことは前記認定のとおりであって、被告が所得税法一五〇条一項三号に該当するとして、同原告らに対してなした請求の趣旨1の(一)及び同2の(一)記載の昭和四三年度分以降の青色申告書提出承認の各取消処分には何ら違法は認められない。

七  以上のとおりであって、請求の趣旨記載の各処分にはいずれも原告ら主張のごとき違法は存しないから、その取消を求める原告らの本訴請求はいずれも失当であり、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺伸平 裁判官 山浦征雄 裁判官 大原英雄)

別紙1 課税処分経過表 但し、( )内は訴訟対象外である。

〈省略〉

別紙2の1 課税処分表 原告 沼田弘章

〈省略〉

別紙2の2 原告 沼田慈子

〈省略〉

別紙2の3 原告 沼田敏行

〈省略〉

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